逆境からの再出発:京都発 ”Notionの創業物語”

今や世界中で使われるNotionは、実は一度倒産寸前となり、京都で奇跡の復活を遂げたスタートアップです。なぜシリコンバレーを離れ京都へ移住したのか?知られざるNotion再建ストーリーに迫る。
田中 洸輝 (IncubateFund VC) 2025.03.20
誰でも

はじめに  〜京都発のグローバル企業Notionに迫る〜

今やほぼ知らない人がいない生産性向上ツール「Notion」

個人から大企業まで、ドキュメント作成やタスク管理、データベース、さらにはAIアシスタント機能まで備えた“オールインワン”のコラボレーションプラットフォームとして認知されています。

皆さんは、Notionが、実は京都で生まれたということはご存じでしょうか?

正確には、会社としては2013年頃にIvan Zhao(CEO)とSimon Last(CTO)によって米国で産声を上げましたが、途中で大きな壁にぶつかり、資金も尽きかけ、チームも解散寸前に追い込まれました。そのタイミングで創業者たちは意外にも京都に移り住み、ゼロから全ての再構築していったというユニークな創業ストーリーが存在します。

「レゴのように自由にカスタマイズできる生産性ツールを作りたい」という夢から始まったNotion。苦境から脱却するために日本・京都という地で再スタートを切り、世界的な成功を収めるまでの軌跡には、スピード感のあるソフトウェア開発、プロダクト設計の美学、そして逆境に負けない“執念”のようなものが詰まっています。

  • なぜアメリカのスタートアップがわざわざ京都へ来たのか?

  • どうやって京都から全てを再建し、Go Globalを達成したのか?

  • 彼らの歩みから、日本発の起業家やVCは何を学ぶことができるのか?

こうした問いを軸に、創業期のNotionを象徴するエピソードの数々を取り上げながら、考察も交えて記載していきたいと思います。

第1章:シリコンバレーでの挫折 〜“成功しそうでしない”プロダクトの苦悩〜

1-1. “LEGO of Productivity Tools”を目指して

Notionの共同創業者、Ivan Zhao(アイバン・ジャオ)氏は中国で生まれ、カナダで育ちました。コーディングとプログラミングへの彼の関心は若い頃から生じており、メリーランド大学でコンピューターサイエンスを学び、Notionを設立する前に、彼はSpace Telescope Science InstituteやNebulaでソフトウェアエンジニアとして働いていました。2013年にSimon Last(CTO)とNotionを設立します。

彼らは「ノーコードで誰でも自由にツールを組み立てられる世界」を目指していました。当初から「従来のExcelやWordだけでは表現しきれない、柔軟なドキュメント&データ管理ソリューション」を作りたかったそうです。 設立後の最初の2年間で、No-CodeプログラミングツールであるNotion Betaに取り組み、4人の従業員を雇用し、エンジェル投資家から約200万ドルの資金調達を実施しました。

1-2. プロダクトの土台が崩れる

サンフランシスコでの船出は、エンジェル投資家からの資金調達成功、エンジニアやデザイナー採用など順調に見えました。しかし実際には、選択した技術スタックが合わなかったため、散々なものとなっていきます。複雑なアプリケーションを動かすための基盤が不安定で、クラッシュが頻発。開発者コミュニティからも「面白そうだが使いにくい」「安定性が足りない」との声が聞こえ始め、ユーザー数も伸び悩みます。

市場からの期待値に対して、プロダクトが追いつかない状況に加え、資金の減りも想定以上に早く、数千万〜数億円レベルの投資を受けていたにもかかわらず、破産寸前で焦りが募る一方でした。

1-3. “ピボット”か“撤退”か

スタートアップにおいて、開発初期の技術選択ミスやPMF未到達による資金難が致命傷になる例は珍しくありません。Notionもまた、同じ危機に直面していました。 「このまま改修して間に合うか」「いっそ新しいプロダクトに切り替えた方がいいのではないか」――焦燥感に追われながら議論を重ねた結果、当時4人ほどの小さなチームを解散して、事実上の“リセット”を行う決断を下します。それは2015年の出来事でした。

しかし、本当に一度解散して再結成する方法がベストなのか?チームは大幅に縮小し、資金もほぼ底をつきかけている。常識的には会社を畳むのが妥当に見えたかもしれません。しかし、創業者たちは「俺たちのビジョンはまだ死んでいない」と、その“意地”ともいえる気持ちが、次に紹介する京都行きに繋がっていきます。

第2章:京都への移住 〜SFから離れて生まれ変わったプロダクト〜

2-1. なぜ京都だったのか?

世界一のスタートアップハブであるサンフランシスコから、なぜ異国の京都? 

「静かで集中できる環境が欲しかった」「文化的に刺激を受けたかった」というクリエイティブ面での狙いがあったとのことです。京都には寺社仏閣が多く、禅や伝統的な日本文化が根付いていることが、彼らの思考を研ぎ澄ませてくれると考えたのかもしれません。さらに、物理的な距離を置くことで、サンフランシスコの “起業家コミュニティ” の過度なノイズをシャットアウトする狙いもあったのでは、との声もあります。

英語圏の情報が届きにくい日本の環境はある意味メリットだったのかもしれません。

2-2. 極限状態でのクリエイティブ

当時の共同創業者、Ivan氏は「京都では1日に18時間以上デザインと向き合った」とも言われます。資金がほとんどなく、チームも解散した状態で、最小人数でゼロからの再構築に挑みました。 ソフトウェア開発は体力勝負でもあります。京都に来たからといって魔法のように状況が改善するわけではありません。しかし、追い詰められた状態だったからこそ「本当に必要な機能は何か」「ユーザーが心底求めている価値は何か」を極限までシンプルに、徹底的に突き詰めることができたのではないでしょうか。

2-3. 真のMVPとは何か “本質”を求める開発プロセス

京都での再スタートにおいて、彼らは「レゴのように拡張できるコア機能」の開発に焦点を絞りました。テキストエディタやタスク管理、データベースなど、多機能を詰め込むのではなく、まずブロック式の基盤を完成させる。そこにカレンダーやWiki、AIアシスタントなどを後から組み合わせられるようにする、まさに“レゴ”の世界観です。 資金も時間も限られた中で、必要最低限の機能を極めて品質を高め、その後にゆっくり広げるという戦略はとても現実的かつ賢明に思えます。

第3章:世界へ羽ばたく 〜再建からユーザー激増への転換点〜

3-1. 2018年に正式リリース

紆余曲折を経て、2016年にβ版をProduct Huntでローンチした後、Notionは最初の1か月間1位を獲得します。 この結果に自信を深めた創業者たちは開発を進め、京都に移住してから3年後の2018年3月に「Notion 1.0」として正式リリースします。これは、タスク管理、ノート、Wiki、データベースを一体化したもので、その柔軟性の高さから口コミで一気に広まりました。2018年には、ウォールストリートジャーナルで「仕事とプライベートの生産性に必要な唯一のアプリ」と評され、マスコミの注目を集めました。2019年までに、Notionはユーザー数が100万人に達したと発表しています。

さらに、多くのユーザーがSNSやブログ等で「こんなことにも使える」「テンプレートを共有しよう」と情報発信したため、コミュニティ主導のムーブメントが起きます。日本国内でも徐々に愛用者が増え、個人や小規模チームの間で使われ始めました。

3-2. 資金調達と評価額の急上昇

リリース後、Notionのユーザーは数百万から数千万規模へと拡大していき、2020年以降は巨額の資金調達を重ねて、2021年には企業評価額が100億ドル(約1兆円超)に達したと報じられました。 この急伸は、単に「便利なドキュメントツール」というだけでなく、「自分好みにカスタマイズできるプラットフォーム」としてのポテンシャルが評価された結果だと考えられます。

3-3. M&Aによる成長戦略とAIによる更なる進化

2021年9月、Notionはソフトウェアツールの統合を構築する企業であるAutomate.io、レンダー製品に使用されたCron(2022年6月)、Flowdash(2022年7月)、Skiff(2024年2月)を含む3社を買収していきます。

2022年頃からは、Notion自体にAIアシスタント機能が組み込まれ、文章の要約やメールの下書き、タスクの自動生成などが可能となりました。これによって、「もう他のツールに切り替えなくても、Notion内ですべて完結できる」感覚が強まり、多様な業務に使われるようになります。 特にリモートワークやハイブリッドワークが進む中、ドキュメントやタスク、コミュニケーションが一元化される利便性は企業やチームにとって大きな魅力です。マイクロソフトといった巨大企業も似たような機能を強化していますが、Notionはその“軽快で柔軟な設計”を武器に競争を続けています。

3-4. コミュニティとテンプレート文化

Notionがここまで浸透した背景には、ユーザーコミュニティの存在が非常に大きいと思います。個人が作成したタスクボードやプロジェクト管理テンプレートがSNSやマーケットプレイスで共有されることで、使い方の幅が爆発的に拡張されました。 このように、ソフトウェアの世界におけるUGCのような、ユーザー自らがアップデートしていく“プラットフォーム型のような成長は、スタートアップが大企業と戦う上で大きな武器になります。機能追加を一社だけで頑張るのではなく、ユーザーとの共創が生む無限の可能性は、Notionの人気を支える大きな原動力となりました。

3-5. 企業価値1兆円越えのデカコーン企業へ

2021年2月、DNS(ドメイン・ネーム・サーバー)の停止により、多くのユーザーがアカウントにアクセスできずデータ紛失も起きました。 こうした困難も乗り越え、2021年10月には2億7500万ドルの資金を獲得し、時価総額は100億ドル(約1.5兆円)に成長しました。  

まとめ 

・しゃがむ意思決定の重要性

Notionが陥った危機的状況(資金不足・チーム解散・技術選択ミス)は、スタートアップでは珍しい話ではありません。ただし、思い切って環境を変え、ゼロからやり直すという決断ができるスタートアップは多くはありません。

結果的にはこの意思決定が功を奏しました。 がむしゃらに踏ん張り続ける、頑張り続ける事だけが成功への近道ではなく、長期思考で今は少し撤退するという意思決定も大事だなと感じます。

また、「日本にいながら世界を目指すのは難しい」と言われますが、必ずしもシリコンバレーに身を置くことが唯一の正解ではないのかもしれません。日本だとしても「必ずしも東京だけが勝ち筋ではない」と思います。地方都市といった“独自の環境”を武器に“集中”と“地域特性”を活かしていく方が有利に働くケースもあるかもしれません。

・プロダクトの“核心”をつく真のMVPと資金調達のタイミング

Notionのブレイクスルーは、「レゴブロックのような“モジュール”を基盤にしたプロダクト」というアイデアを捨てなかった点にあります。途中で技術的な課題が山積みになっても、根幹のビジョンを変えずに突き詰め続けた結果、「ノーコードで自分の業務に合わせて自由に拡張できる」プロダクトとして差別化に成功しました。

多機能化や付加価値の追求に目が向きがちなスタートアップですが、「自分たちが本当に解決したい問題や提供したい価値は何か」を見失わなければ、最後に残る“コア”を強く育てることができます。マルチプロダクトにしていく事や機能やサービスを盛り込みすぎる前に、まず1つのコアアイデアをとことん深堀りする姿勢が重要かもしれません。

また、彼らはβ版リリースから3年かけて正式リリースを行なっており、小さく小さく丁寧に事業立ち上げを行っています。VCからの資金調達はタイムリミット(ファンドライフ)が存在します。まず資金調達するのではなく、本当にMVPが仕上がってから、PMFしてから資金調達するんだという彼らの考え方も参考になるかもしれません。

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