2025年に破綻したスタートアップから学ぶ教訓

世界中で注目されていたが、2025年に破綻・事業停止に至ったスタートアップ10社を選定し、破綻の理由やそこから学べる教訓についてまとめました。
田中 洸輝 (IncubateFund VC) 2026.01.19
誰でも

2025年 スタートアップの失敗 7選

2025年は、世界のスタートアップエコシステムにとって「審判の年」となりました。AIブームの裏側での実需の選別が進み、「成長」よりも「実益」が問われた1年でした。

以下に記載の企業たちは、かつてはユニコーンとして輝き、世界を変えると思われていましたが、市場環境の変化、ガバナンスの欠如、あるいは技術的な壁によって、その夢は断たれました。

それぞれの失敗にはストーリーがあり、経営者や投資家にとって痛烈な教訓があります。あくまで推測が入っていますが、
ご参考になれば幸いです。

1) Northvolt(ノースボルト)

ノースボルトとは スウェーデン発のバッテリーメーカー。「欧州のグリーン産業の希望」として、フォルクスワーゲンやゴールドマン・サックスから150億ドル以上を調達。中国への依存を脱却し、欧州域内でのEVバッテリー供給網の確立を目指していた。

失敗の理由

  • 「製造地獄」からの脱却失敗: 工場の立ち上げにおいて、歩留まりの悪さと安全上の問題が多発。顧客である自動車メーカーへの納品遅延が常態化した。

  • 資金調達のショート: 設備投資(Capex)が重いビジネスモデルであったが、生産トラブルにより追加の資金調達が難航。

  • EV需要の減速: 欧州市場全体のEVシフトが予想より鈍化したことで、頼みの綱である受注残もキャンセル危機に直面した。

ノースボルトからの教訓

  • 「政策主導型トレンド」への過度な依存と、産業化能力の欠如

  • EVシフトは、インターネットの普及とは異なり、消費者の「強烈な欲望」ではなく、政府の「補助金と規制」によって人工的に作られた市場。政策という変数が一つ変わるだけで、需要予測の前提が崩壊する「脆い市場構造」に、数兆円規模の設備投資を投下してしまった。 

  • 最大の敗因は「研究室の成功」を「工場の成功」に変換するケイパビリティの欠如。創業チームはビジョナリーだったが、数万人の労働者を統率し、ミクロン単位の品質管理を行う「製造業の泥臭い規律」を持ち合わせていなかった。ハイテク製造業において、経営陣に必要なのは、トヨタ的なカイゼン力だった。

2) Builder.ai(ビルダーエーアイ)

ビルダーエーアイとは 「AIを使って誰でもアプリを作れる」と謳った英国発のユニコーン企業。ソフトバンクなどから出資を受け、ノーコード開発の民主化を掲げていた。

失敗の理由

  • 「フェイクAI」の実態露見: 自動生成と謳っていたプロセスの多くを、実際には海外の安価なエンジニアが手動で行っていたことが発覚。

  • ガバナンスと信頼の欠如: 売上高の粉飾や資金の私的流用疑惑が浮上し、債権者が資産を差し押さえる事態に発展した。

ビルダーエーアイからの教訓

  • 「AI」というバズワードで実態のない技術を飾り立てることは、当然最終的に破滅を招く。顧客が増えれば増えるほど裏側の人的オペレーションが破綻するという、テック企業とは真逆の「負の規模の経済」が働いていた。

  • 投資家・顧客によるデューデリジェンス(実態調査)の重要性。ブラックボックス化された技術には常に疑いの目を持つべきである。

3) Lilium(リリウム)

リリウムとは ドイツの「空飛ぶクルマ(eVTOL)」開発企業。ジェットエンジンを用いた垂直離着陸機を開発し、SPAC上場で33億ドルの評価額をつけた。

失敗の理由

  • 認証プロセスの壁: 航空機としての安全性認証(EASA/FAA)取得に時間がかかりすぎ、商用化の前に資金が尽きた。

  • 高金利下の資金難: 収益ゼロの期間が長く続くディープテック企業にとって、資金調達環境の悪化は致命傷となった。

リリウムからの教訓

  • Liliumの最大の特徴は、36個の小型ダクトファン(扇風機のような羽)を使った他社とは比較にならないほど美しいデザイン。しかし、これが航空力学的には致命傷。 小さなファンで機体を持ち上げるには猛烈な速度で回転させる必要があり、エネルギー消費が激しすぎる。  

  • Liliumの機体が実用化するには、現在の技術レベルを遥かに超える「超高エネルギー密度のバッテリー」が必須になったが、 「機体が完成する頃には、バッテリー技術も進化しているだろう」という他力本願な前提でスタートしてしまった。

  • 本来であれば、技術が確立する前の段階で、国家予算やインフラファンドのような「忍耐強い資本」を確保すべきだった。上場(SPAC)によって四半期ごとの成果を求められる環境に身を置いた時点で、安全認証という「時間を買えないプロセス」との板挟みになった。  

4) Fisker Inc.(フィスカー)

フィスカーとは 著名カーデザイナー、ヘンリック・フィスカーが設立した米国のEVメーカー。自社工場を持たず製造を外部委託する「アセットライト」モデルで、テスラへの対抗馬と目された。

失敗の理由

  • 未完成品での出荷: 納車を急ぐあまり、ソフトウェアに欠陥がある状態で車両を出荷。著名レビュアーからの酷評を受け、ブランドイメージが崩壊した。

  • アフターサポートの欠如: 故障時の対応ができず、顧客の不満が爆発。在庫車を安値で投げ売りせざるを得なくなった。

フィスカーからの教訓

  • ソフトウェアの開発コストが大きく低下し、かつSNS時代の現代において、初期プロダクトの品質(特にソフトウェア)は意外と妥協してはならない。一度失った評判を取り戻すコストは非常に大きい。

  • ハードウェアにおいて「委託製造」は魔法の杖ではない。品質責任は最終的にブランドが負うことになる。特にEVは未成熟産業であり「ファブレス(工場を持たない)モデル」は難易度が高い。Appleが工場を持たずに成功できるのは、Foxconnという超一流の製造パートナーが存在し、かつサプライチェーンが成熟しているから。Fiskerは製造を委託することでリスクを回避したつもりだったが、実際には「製品改善のフィードバックループ」を切断する結果となった。ソフトウェアのバグやハードの不具合が発生した際、自社に製造部門がないため、即座にラインを止めて改善するというアジャイルな対応が取れず。「設計」と「製造」の分断が、致命的な品質低下を招いた。

5) Plenty(プレンティ)

プレンティとは ソフトバンクなどが出資した米国の垂直農法(植物工場)スタートアップ。「AIとロボットで農業を再発明する」と掲げ、屋内での効率的な食料生産を目指した。

失敗の理由

  • 物理とコストの壁: 建設コストと莫大な電気代が重くのしかかり、生産される野菜のコストが露地栽培に勝てなかった。

  • スケールの失敗: 実験室レベルの成功を、商業規模のプラントで再現することの難易度を見誤った。

プレンティからの教訓

  • 「Unit Economics」が最重要。素晴らしい技術による生産であっても、最終製品がコモディティ(野菜)である以上、コスト競争力からは逃れられない。「レタス」という、差別化が難しく単価の安いコモディティを作るために、ロボットやAIという超高コストな技術を投入した。本質的な問いは、「その技術は、太陽(無料のエネルギー)と土(無料の基盤)よりも安く野菜を作れるのか?」という一点。

  • エネルギー集約型のビジネスモデルは、エネルギー価格の変動リスクを直撃する。「技術的な実現可能性(作れるかどうか)」に固執し、「経済合理性(ペイするかどうか)」を軽視。

6) Flip(フリップ)

フリップとは 「TikTokとAmazonの融合」を目指したソーシャルコマースアプリ。動画を見て商品を購入すると報酬がもらえる仕組みで、若者を中心に爆発的に普及した。

失敗の理由

  • 補助金漬けの成長: ユーザーはアプリの魅力ではなく、「割引と報酬」目当てで集まっていただけだった。資金が尽きて報酬をカットした瞬間、ユーザーは消滅した。

  • PMF(プロダクトマーケットフィット)の誤認: 「金で買った成長」を「真の需要」と勘違いしていた。

フリップからの教訓

  • LTV(顧客生涯価値) > CAC(顧客獲得コスト)の原則を無視してはならない。

  • 現金を配って得たユーザーは、現金がなくなれば去っていく。ロイヤリティはお金では買えない。本質的な価値(楽しさ、便利さ)が磨かれないまま、ドーピングで数値を膨らませた結果、資金枯渇とともに即死。

7) Byju's(バイジュース)

バイジュースとは インド発、世界最大のEdTech(教育技術)企業。評価額は一時220億ドル(約3兆円)を超え、世界中の教育企業を買収していた。

失敗の理由

  • 無謀なM&Aと借金: 低金利時代に12億ドルの巨額ローンを組み、成長を買収で維持しようとしたが、金利上昇により返済不能に陥った。

  • 会計のブラックボックス化: 長期間にわたり決算発表を延期。蓋を開けてみれば巨額の赤字と資金流出が明らかになり、投資家は株式価値をゼロに切り下げた。長年監査を担当していたデロイトは、「財務書類が提出されない」「協力が得られない」として、任期を残して辞任した。

バイジュースからの教訓

  • 「評価額(バリュエーション)」は虚像であり、「キャッシュフロー」こそが実像である。

  • CFO(最高財務責任者)と監査法人の役割を軽視した企業は、規模が大きくなるほど崩壊のリスクが高まる。人材やシステムが整わないままに世界中で何十社も買収した結果、グループ全体で「今、どこに、いくら現金があるのか」すら正確に把握できていない状態に陥った。 黒字だと思っていたのに、実は現金が枯渇していた。

***

総括:2025年、「ビットの夢」が「アトムの現実」に敗北した年

1. 「ソフトウェアの論理」で「物理法則」はハックできない

Northvolt、Fisker、Plentyの失敗は傲慢さの証明。ソフトウェアはバグをパッチで即座に修正できるが、Fiskerの車両やNorthvoltの工場における欠陥は、修正に数億ドルと数年を要する。「走りながら考える(Move Fast and Break Things)」という哲学を中心に据えて、人の命や巨大な資本を預かるハードウェアやディープテックに持ち込みすぎることは危険。この領域は、ソフトウェアより参入が遥かに難しい分、勝利は競争を意識したスピードではなく「完遂力」に宿る。

2. 「合成されたPMF」の崩壊

FlipやByju'sは、「実需」ではなく「資本」によって市場需要を捏造していました。
顧客がプロダクトを愛していたのではなく、プロダクトに付随する「補助金(割引・報酬)」や「過剰なマーケティング」を消費していたに過ぎず、これは「ドーピングによる筋肉増強」と同じ。薬(資金)が切れれば、その筋肉(ユーザー数・売上)は瞬く間に萎縮する。
2026年以降の勝者は、資本投下が生む「成長率」ではなく、初期は別として最終的には資本がなくとも顧客が離れない「依存度」によって評価される。

3. 「ナラティブ(物語)」から「トゥルース(真実)」への回帰

Builder.aiやByju'sの事件は、投資家が、地味で堅実な真実よりも、派手で美しい物語に高いバリュエーションをつけた結果、起業家は「事業を作る」ことよりも「ストーリーを作る」ことに最適化してしまったことで起きた。

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